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第3回 ジェネリーノキング インタビュー

『リング』『らせん』など、数々のエンターテインメント小説を手がけたベストセラー作家、鈴木光司さんは、自他共に認める“前向きに育った男”。
それには母、鶴子さんの影響が大きいという。
そんな鈴木さんが主夫業と二女の子育てをこなし、ベストセラー作家という大成功をつかんだ、その秘訣とは?目から鱗のアドバイスが満載です!

作家 鈴木光司
鈴木光司(すずきこうじ)氏 プロフィール
1957年静岡県浜松市生まれ。慶應義塾大学卒業後、作家をめざし、自宅で塾を開きながらアルバイト生活を続け、25歳で結婚。長女が生まれてからは、高校教師である妻に代わって主夫業も。90年『楽園』で作家デビュー。95年発表の『らせん』で第17回吉川英治文学新人賞を受賞。また、2013年『エッジ』で、アメリカの文学賞であるシャーリィ・ジャクスン賞(2012年度長編小説部門)を受賞。今年8月には、長女との共著『野人力』が発行予定。日本男子を叱咤激励する内容とか。

親の役目はただひとつ、自分で考え、判断する力を身につけさせるために導いてやること

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男はヒヨヒヨの未完成品、男になるべく努力を続けるべし

「男は『男であらねばならぬ』という意識を、常に強く持ち続けなくてはならない」
開口一番、鈴木さんから発せられた言葉は、まるで強烈なストレートパンチのよう。男子の子育てにあれこれ迷い悩む親にとって、目の覚めるような一言だ。
そもそも40億年前、地球に初めて誕生した生命にあえて性別をつけるならメスということになる。それに比べてオスの歴史は浅く、せいぜい5億年程度。つまり、生命の根幹はメスであり、オスという概念はそこから派生したに過ぎない。だからこそ、男は生涯をかけて一人前の男になるべく努力しなければならない。
「女性は完成品として生まれてくるけれど、男はヒヨヒヨの未完成品のまま。それをまずは自覚しないと」
鈴木さんは発破を掛ける。
「油断すると、あっという間に太い幹のほうに飲み込まれてしまう。そのほうがラクだからね」
昨今のオネエ人気も草食系男子の急増も、鈴木説にかかれば、なるほど、合点がいく。
「『男だからがんばれというのは時代錯誤』とか『今のキミがいい。そのままでいい』とかよく言うけど、あれは最悪。ヒヨヒヨのまんま、努力しなくなるから」

ポンポンと小気味よいテンポで飛び出す言葉の数々は、どれもこれもズシリと心に響く。いわく、男の世界は格差が厳しい。できる人はものすごくできるが、できないヤツはとことんできない。努力したものとそうでないもの、その差は天と地ほどの違い。ゆえに、男の歩む道は、当然、厳しいものとなる。

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「人と同じことをしていたら、一角の人物にはなれない」
そう自覚したのは高校生のとき。きっかけはタバコだ。当時、友人達とロックバンドを結成していたが、バンドのメンバーは皆、タバコを吸っていた。例外は「タバコは吸わない」と決めていた鈴木さんただ一人。
「なんでみんな吸うんだろうと思ってね。そこでふと考えたのが、タバコという共通のアイテムを持っている仲間の輪の中に、あえてそれを持たずに参加したらどうなんだろうって。自分もタバコを吸って、輪の中に入ることは簡単。でも、共通のアイテムがないなら、その欠落したところを埋めてなお余りある状態にまで自分を高めていく。そうすれば、輪の中に入っていけるのではないか? タバコだけじゃない。あらゆることすべてにおいて、共通のアイテムをあえて捨て、それによってできた“穴”を埋めようと自分を高める努力をし、特色を出していけば、絶対に一角のものになれるはず。みんなと同じと安心していたら、大成功はしないから」

いざという時に「私がついているわよ」
男子の母はそれで十分

とかく私たちは「人と違う」ことに対して敏感になりがちだ。「個性を大切に」と思いつつも、「みんな持っているよ」と子どもが言えば、「ウチの子だけ仲間外れになるのでは…」と案じて、スマホなり携帯ゲーム機なり、ねだられるものを買い与えてしまう。実際に購入しなくても、「みんな」の一言に心揺らいだ親は少なくないはずだ。「みんなと同じ」に安心してしまうのは、親のほうかもしれない。
「なぜ必要なのか。子どもと一緒に、論理的に考えていけばいいんじゃないか? みんなが持っているからという理由ではなく、必要な理由としてちゃんと筋道が通っていれば買えばいい」
鈴木さん自身も小学生の頃は「みんなが持っているから欲しい」と母親にねだったことがあったそうだ。だが、徐々に気づいたと言う。本当は、そのモノが欲しいわけではなく、持っていない自分を他人がどう思っているかが気になって、ねだってしまったことに。

「人と違うことに対する怯えだよね。他人からこう思われているんじゃないかと勝手に想像して、自分自身で身動きをとれなくしてしまう。でも実際には、誰も自分のことなんてそんなに気にしていないんだけどね」
とはいえ、身動きがとれなくなってしまう子は多い。そんなとき親はどうしたらいいのだろうか。

一歩踏み出せるように背中を押してあげる。『いざという時には、私がついているわよ』って。これだけでいいんだよ

 

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実は、鈴木さんの母親がまさにそういう人だった。電々公社にフルタイムで勤めていた母、鶴子さんは、あれこれ口出ししないが、ここぞという時に背中を押してくれ、息子を見守ってくれた。それを物語るエピソードが、小学校4年時のバイクの無免許運転だ。話はこうである。

物心ついた頃から家にバイクがあった鈴木家。見よう見まねで、いつのまにか鈴木少年も母のスーパーカブを運転できるようになり、人気のない裏道でこっそり乗り回していた。もちろん交通違反。わかってはいるけれど、思う存分、バイクを走らせてみたい! そこで母に相談したところ、しばらく考えた後に提案してきたのが、「小学校の校庭」。私有地でバイクを走らせるなら違反にはならない。手頃な広場をあれこれ思い浮かべているうちに、小学校の校庭に思い至ったというのだ。
「午後8時過ぎに、母とふたり乗りをして校庭に行き、思う存分、バイクでトラックを走り回ってね。もう気分爽快!(笑)。母は『気のすむまで走っておいで』と、そばで見守ってくれた。結局、こんな悪行を二度やったところで、自ら『もう無免許運転はやらない』と宣言したよ。子どもながらに、こんなとんでもないことを続けていたら、いつか母に迷惑がかかると思ったからね」

すべてが規格外のエピソードだが、なんともあっぱれ。これぞ子育てのあるべき姿と言うべきだろう。
「あの母に育てられたことは、本当に運が良かった」と鈴木さん。親にとって、最高の褒め言葉だ。

自分で考え、判断することが大事
そのためには定理をおさえよ

いま、鈴木さんは本気で日本男子の行く末を案じている。男たるもの、一人前の男になるべく、懸命に努力しなくてはならないはずなのに、その姿が見られない。
「いまの世の中、自分の力で判断するチャンスがどんどん奪われつつある。例えばカーナビ。何も考えなくても目的地に連れて行ってくれる。だから、あらかじめ地図で調べておく、なんて事前勉強はしなくなる。新機能という言葉に甘えて、自ら学ぶことをやめてしまうんだ」
自分の代わりに機械が、あるいは、誰かがやってくれる。この発想に慣れてしまうのは実に危険、と鈴木さんは警告する。一人ひとりがきちんと考え、判断することをしなくなると、最悪の事態が引き起こされることもある。2014年4月に韓国で起きたセウォル号沈没事故がその代表例だ。もしも、乗員一人ひとりが海の危険についてきちんと学び、理解していたら、あれほどの悲劇にはならなかっただろう。
機械任せ、他人任せにしておきながら、何か問題が発生すると、声高に糾弾するのも昨今の悪しき風潮だ。結果、クレーム対応のためのマニュアルがやたらに多くなる。

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「レストランに行くと、『食べられないものはありますか?』ってよく聞かれるじゃない?アレルギー対策なんだろうけど。ああいう時決まってこう言うの。『アボカドの種』って(笑)。そうすると、たいていの店員は『こちらのサラダにはアボカドが入っておりますが、すべて取り除いたほうがよろしいでしょうか?』って。よく考えればわかるのにね(笑)」
自分で考えずにマニュアルどおりに対応するから、サービスはどんどん画一化。何事もつまらないものになっていくと憂える。
「一人ひとりがきちんと考え、判断して決定する。臨機応変にね。その積み重ねの中でしか、人は成功できない。ただし、これには前提条件がある。まずは世界がどんなしくみになっているか、共通の論理である“定理”というものをおさえておく必要がある」
定理は大事だ。これがなければ、身勝手な判断になってしまう。定理を使わなければ、証明問題が解けないように、あらゆることに定理がある。物理、数学、生物、言語、歴史、政治etc. まずはそれらをおさえるべし。それが勉強の基本だと鈴木さんは断言する。
「定理をおさえ、突き詰めていくと、人間は何によって動かされてきたのかが見えてくる。それを捕まえなくちゃ。それでようやく自分の力で判断し、決定することができる。勉強する意味はそこにある。テストでいい点をとるためなんかじゃない」
だからこそ、親の役目はただひとつ。そんな力を身につけさせるために導いてやること。その一言に尽きる、と鈴木さん。最後にとっておきのコツを教えてくれた。

「男はおだててナンボ。褒めたほうが伸びるから。そうやって導いていけば大丈夫(笑)」

 

松前感想: 光司さんと出会ったのは2年前。人間としても男性としても魅力に輝いていて、本当に素敵な方だと感動したのを覚えています。その後、光司さんが大切にされているご家族、娘の美里ちゃんとも大の親友になり、恋の話など、いつも本音で語っています。 そんな光司さんと美里ちゃんが、親子で共著を出版することになりました。タイトルは「野人力」小学館2015年8月1日発売  男は野人になれ!という光司さんに対し、娘の美里ちゃんが色々質問してる本で、今から私も楽しみです♡ 是非、こちらも多くのママ達に読んで欲しいです♡

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聞き手/松前博恵(ライター/室作幸江   写真/多田直子)